バルセロナの建築と言えばアントニ・ガウディを想起する方が多いかもしれませんが、オリンピックや万国博覧会などの近代化の風を受け、多様な建築が生まれています。
バルセロナの海岸沿いの南方、ムンジュイックの丘と呼ばれる小高い丘となったエリアがあります。
ムンジュイックの丘の上を舞台に、近代化の痕跡が垣間見えるので、紹介していきたいと思います!
目次
バルセロナ・パビリオン
1929年のバルセロナ万国博覧会の際、バルセロナ・パビリオンを、近代建築の巨匠、ミース・ファン・デル・ローエが設計しています。
一般来客向けではなく、当時のスペイン国王を迎えるために作られた建物ですが、その後解体・売却され、後に復元されたものが展示されているとのことでした。
『Less is more.』(少ない方が豊かとする)『God is in the detail』(神は細部に宿る)などの言葉で知られるミースですが、当時のバルセロナではどのように受け止められたでしょうか。
ガウディ建築が広く知れ渡り、サグラダ・ファミリアやカサ・ミラのような有機的・生物的で豊富な装飾が施されているような建築が王道とされ評価される中、規則的でシンプルさを極めたミースのこのパビリオンは、さぞかし異端で衝撃的だったと言います。
万博という催しものを契機に、建築の界隈でもバルセロナは近代化の風を受けたと言えるのではないでしょうか。
実際に中を見学することができたので、中身についても触れていきたいと思います!
神は細部に宿る
バルセロナ・パビリオンの平面図を見たことがある方はそのシンプルさに驚かれたこともあるかと思いますが、実際の建築の感じ方はまた異なりました。
建物内部の壁、屋外に計画された水盤に敷かれた砂利、建物内外で統一された石材の床など、面で見ると非常にシンプルなのですが、それぞれに表情があり、写真や図面だけでは分からないような建築自体の面白みを感じました。
実際に触ったりもしましたが、復元されたこのパビリオンの材料についても、ミースの意思を尊重して選択されたと言います。
『Less is more.』の「Less」の部分は、構成的・材料的な少なさを示してはいますが、決して建築自体が「Less」なのではなく、体験はむしろ「More」でした!
丘の上の要塞
内部に入ります!
ガラスや大理石などでシンプルに構成された面の空間の中に、椅子やカーテンなどの家具が点々と配置されています。
実際に座ったりすることはできませんでしたが、自由に内外を見学し、憧れだったミース建築:バルセロナ・パビリオンを堪能できました。
天井には照明器具などは一切設置されておらず、天井面すら一枚の大きな建物構成面として計画されています。
屋根は8本の十字型柱で構成されていますが、十字とすることで細く見せる効果を狙っており、建物を支える柱ですらできるだけ省こうとするミースの意図が感じられます。
バルセロナ・パビリオンの建物や水盤は被写体として多く撮られていますが、その前面にある公園はあまり取り上げられません。
水盤越しにみる公園とその植栽を見ると、木々と空が水盤に映えており、それもまた一興でした。
繊維工場のリノベーション
『カイシャ・フォーラム』は、レンガ造の繊維工場を美術館にリノベーションした建築です。
時間的に中を見学できなかったのは残念ですが、象徴的なエントランス前のオブジェクトは見れました。
磯崎新の設計ということで、同じ日本人としての感覚で挑みました!
先ほどのバルセロナ・パビリオンからほど近い場所ということで、従来のバルセロナの建築文化への挑戦という意味では、ミースに通じるものがあるのではないでしょうか。
ミロ美術館
オリンピック施設群の隣に、『ミロ美術館』はあります。
なんとこの美術館、ジョアン・ミロという個人の美術作品を主に展示しているのですが、なんと個人美術館としては世界最大の美術館です。
建物内外に観光客が集まる人気の博物館で、特徴的な幾何学的な外観をしています。
内部には中庭が設けられ、自然光を取り入れた非常に明るい空間となっています。
ミロの意思に従い、現在では若手芸術家の作品も展示しており、バルセロナの現代芸術活動の場としての立ち位置を確立しているそうです。
カタルーニャ美術館
同じくムンジュイックの丘の上に、ひと際目立つ城のような建物があります。『カタルーニャ美術館』(MNAC)です。
丘の勾配を利用し、前庭には階段状の広場と噴水があり、単なる美術館としては少し荘厳すぎるような雰囲気もあります。
実はこの建物、国立宮殿の中に美術館を計画したもので、度重なる改修の後には国王夫妻も訪れる場所なんだとか。
バルセロナオリンピックに合わせて改修も完了されており、建物としてもあまり劣化していないように見えます。
カタルーニャ美術館の名の通り、カタルーニャの美術を中心に展示されており、国立美術館に相応しい内容でした。
建物前面の空間も賑わいがあり、観光客やそれをターゲットにした露店商も多くいます。
高額なお土産の売りつけやスリには気を付けたいところです…
バルセロナ・オリンピック
1992年に開催されたバルセロナオリンピック。
このムンジュイックの丘の中心部に、各種競技施設が計画されており、見学することができます。
式典の舞台となる中心公園、競技スタジアム、野球場、サッカー場、ラグビー場など、様々な競技施設が密集しているので、コンパクトに見学することができます。
複数の鉄塔が並ぶ水盤のある写真が中央公園の写真で、その他スタジアムなどを見学しました。
スタジアムは座席の裏側からも眺めることができ、オリンピックの裏側を見ているような不思議な気持ちになりました。
日本人選手では、柔道で金メダリストが誕生するなど、記憶に残った方もいるのではないでしょうか。
ムンジュイックの丘から
色々な建築を楽しむことができるムンジュイックの丘ですが、ふと外に目をやると、丘の上から見えるバルセロナ市街地を眺めることができます。
目的とする個々の建築漫遊も大切ですが、一息ついて視点や目線を変えることも大切です。
人生と同じです。